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エッセイ・コンクール

第1回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

ぜーんぶ親が先や 有田 英樹【大分県】

 「鶏が先か、卵が先か」・・。
 結論がでない堂々巡りのこの問い。でも、僕は答えを知っているんです。


 あれは、娘が入学ほやほや、小学校一年生の時でした。言葉に興味を覚え始めた娘は、なぞなぞが大好きになっていました。
 そこで、僕は、娘にこう聞いてみたのです。
「あのさ、おもしろいなぞなぞ、教えてあげようか?」
娘は大きくうなずきました。
「鶏と卵、どっちが先にこの世の中に現れたと思う?」
「えっ? どういうこと?」
 今度はきょとんです。僕は、鼻を膨らませて続けます。
「もし、卵が先だとすると、その卵は何から産まれたのかってことになるやろ。もし、鶏が先だとすると、その鶏はもともと卵の中にいたはずで、おかしいやろ。だから、神様はどっちを先に作ったか誰もわかんない。答えがでない問題だろ。」
「なあんだ、そういう意味か・・。」
 娘は空を見上げて考えました。そして声を上げました。
「わかった!」
 娘の答えは、他の眼から見れば、他愛のないものだったでしょう。でも、僕にとって、それは、目からうろこの答えだったのです。
「最初は、絶対に、ニワトリや。」
「ふうん、なんで、そんなふうに思うん?」
「ニワトリがおらんやったら、卵からかえったヒヨコのお世話は誰がするん?」
「えっ。」
「そうやん。エサをあげたり、羽をそろえたり、ワシから守ったり、誰がするん?」
「あっ・・。」
僕はその先の言葉を失いました。
「そうやろ。もし卵が最初やったら、ヒヨコがニワトリになる前に死んでしまうやん。」
娘は目をきらきらさせて続けました。
「だから、なんでもいっしょや、親がぜーんぶ最初や。」
 僕は、いろんな場面で子どもに期待してしまう親でした。明るい子でいてほしい。素直でいてほしい。伸び伸びしていてほしい。期待することの善し悪しや、意識的か無意識かも別にして、たくさんの期待を、僕はしていたと思うんです。でもその前に、親は子どもから期待されている。そんな当たり前のことを、思いもしない僕だったんです。


「親がぜーんぶ最初や。」と言った娘。
 こうして僕の中で『鶏卵の問い』は終止符をうち、少しだけ、それまでと違った親になれた気がします。

【受賞の言葉】
 本編主人公の娘がお祝いをくれました。「お父さん、おめでとう。鶏も飛べるんだと、少し前に知りました。まだ私も弟も羽ばたきの練習中だけど、いつかきっと立派に空を舞って見せましょうぞ。連日の生意気、許してね。たくさん、ありがとう」。涙が出ました。


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