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エッセイ・コンクール

第2回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

これから、おじさんとして 佐藤真貴【福島県】

   「ほら、抱っこして」
 急に抱っこなんて言われても、いままで産まれたばかりの赤ん坊を抱いたことがない僕は、どうしたらよいかわからない。
 「大丈夫。腕のところに頭を置くようにして、片方の腕でおしりをかかえて」
 そう言うと、姉は躊躇する僕の胸に赤ん坊を押し当てた。僕はとっさに、両腕を言われた通りの形にし、赤ちゃんをなんとか抱っこした。
 ち、小さい! しかも、軽い! これが赤ちゃんなんだ!
 緊張の時間が始まった。
 少し抱え方を変えようと、頭が乗っている左腕の脇の下を空けた。すると、腕が坂道となったために頭部が回転し、今まで僕の胸の方に向いていた顔が、180度違う方向を向いた。
 (おおっと!)
 とっさに脇を閉め、首が元の位置になるようにゆっくりと自分の胸の方に引き寄せた。
 焦った! 首がねじれてもぎれ、ポトン、と落ちてしまうのではないかと思った。同じ人間のはずなのに、赤ちゃんというのは、なんだかもろくて柔らかい。
 「お姉ちゃん、はい、返すよ」
 そう言って赤ん坊を姉に渡そうとしたときだった。
 「見て。おっぱいほしがってるよ!」
 上から自分の胸の辺りを見ると、右の頬を僕の胸にぴったりとくっつけた甥の口元が、大きく開いたり閉じたりしている。以前、テレビで見たことがあった。目がしっかりと開かない段階でも、頬や口元に力が加わると、乳首を求めるように本能的に唇を動かすことがある、と。あっくんは、Tシャツの上から僕の乳首を探している。はずかしい。でも、か、かわいい!
 「あんたもいよいよおじさんだね」と姉。
 無事に赤ちゃんを渡し、僕は二階の自分の部屋に戻った。ふぅー。「おじさん」かぁ。緊張して抱いていたせいか、肩が凝っている。もっと上手に抱っこしてあげればよかった。そのためには、後頭部をこんなふうに腕に乗せて……僕はいつの間にか枕を持って練習していた。
 子育てはとても大変だと聞く。中には育児ノイローゼになってしまう人もいるらしい。お姉ちゃん、自分が疲れて、旦那さんも忙しかったら、俺のところに来いよ。いつでも子守してあげるから。それまでにもっと上手に抱っこできるようにしておくよ。
 あの子が大きくなったら、キャッチボールを教えてあげよう。ふわふわした赤ちゃんが、がっしりした少年に育つことを想像すると、胸がワクワクしてくる。
 あっくん、おじさんをこれからよろしくな!

【受賞の言葉】
 産まれたてホヤホヤの赤ちゃんを抱いたとき、不思議と「俺も一緒に育てるぞ!」という気持ちになりました。男にも本来、子どもを育てたい、という気持ちが備わっていると思います。それを十分に生かせば、日本中の母親の子育て疲労がなくなり、赤ちゃんたちもぐんぐん育つと思います。


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