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エッセイ・コンクール

第3回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

内閣府特命担当大臣(少子化対策)賞・最優秀賞

七十歳違いのともだち 佐野広美【東京都】

 十年近く暮らした人と別れて、私はもうすぐ三歳になる娘を連れて実家に戻ってきました。これが最善の選択だったはずなのに、親の都合でまだ何も分からない子供を巻き添えにしてしまった罪悪感と実家への気兼ねで、私の心の中は「ねばならないこと」でがんじがらめになっていました。一方、数ケ月前からの不穏な空気を感じ取って娘はすっかり無表情な女の子になっていました。
 突然の保育園生活で疲れきった娘を見かねて、私の母が夕方の保育を引き受けてくれました。
 実家のとなりに伯父夫婦が営む食堂がありました。お客さんが絶える三時過ぎになると近所のお年寄りたちが集まってきて、そこで毎日お茶のみ会が開かれていました。おばあちゃんたちは、マンション住まいで私以外の大人を知らない娘をお茶のみ会のメンバーに迎えてくれました。初めはもじもじしていた娘も、次第に優しいみんなの言葉がけになじんで話をするようになりました。 
「今日は団子を買ってきたぞー」「このおせんべい食べてみて〜」
 大人の中に一人ちょこっと座る娘のために、誰もが娘の好きなお菓子を持って集まりました。 
昨今は子供が減って昔のような小さな子供との触れ合いがなくなったお年寄りたちにとって、突然現れた娘は太陽でした。また娘にとっても、再就職した忙しい私とのすきまを埋めてくれる大事なリラックスタイムだったのです。
 やがて、園から帰る娘を道路に出て待っていてくれるお茶仲間のおばあちゃんたちの姿を見つけると、母の手を振りほどきカバンを放り投げて「た・だいまぁ〜」と駆け出していくようになりました。
 「たつこさぁ〜ん!」
 名前を呼ばれ腕に飛び込まれたおばあちゃんが、「七十歳違いのこんなに可愛いともだちができるなんて幸せだね」と言った時には、みんな大笑いだったそうです。
 こうして私は安心して仕事に専念できるようになりました。娘は私がいない時間も大勢のお年寄りたちに見守られて笑顔を取り戻し、誰とでも話のできる活発な女の子に変身していきました。
 沈みかけた娘を救ってくれたのは、実家の家族と、人生経験を活かして手を差し伸べてくれた地元のおじいちゃん・おばあちゃんたちの親身な優しさでした。あの時があってこそ、今こうして元気な私たちがいます。恩返しのためにも娘を大切に育てていきたいと思います。

【受賞の言葉】
 思いがけない受賞に大変感激しています。エッセイを書くにあたって写真や子育てメモを見ているうちに、日々の生活に追われて忘れかけていた、娘が小さかった頃のできごとが鮮明に蘇ってきました。今日に至るまで、両親・妹をはじめどれほど多くの人に助けてもらったことかと思いかえし、感謝の気持ちでいっぱいです。子育てを通じて世代を超えた人の優しさや懐の深い心に触れることができて、とても幸せに思います。


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