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エッセイ・コンクール

第3回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

よしよし 伊藤由佳【山形県】

 まだ長男が3歳、次男が1歳だったある日。私は幼い二人を連れて、食堂で昼食をとっていた。店内はお昼のピークを過ぎ、人がまばらになった頃。私は食べ終えて席を立ち始めた長男に声をかけつつ、次男に食事を与えていた。おとなしくしていない長男と、なかなか食べ終わらない次男。子ども達にかける私の声に、イライラが溶け始めていた。
 その時、隣のテーブルを片付けていた店員のおばちゃんが声をかけてきた。
「子どもさん、いくつ?」
「3歳と1歳です。」
「かわいいねえ。」
「ありがとうございます。」
 子ども達を褒めてもらったのが嬉しくて、私も思わず笑顔がこぼれた。イライラした気持ちが、ふっと緩んだ。そんな私に、おばちゃんはさらに声をかけてくれた。
「お母さん。若いのに頑張って子育てして、エライね。」
次の瞬間、私は一瞬何が起こったのかわからなかった。笑顔のおばちゃんは、子ども達ではなくて私の頭を撫でたのだ。よしよし、とでも言うように優しく。
「いえいえ。」
謙遜して答えようと思ったのに、予想外の出来事に言葉が出なかった。かわりに、私の目からはポロポロと涙がこぼれた。母親としての無駄な気負いが解けて流れて、ただただ温かい気持ちに包まれるようだった。
 おばちゃんは、うんうんと頷きながら
「お母さん、頑張ってね。」
と言い残し、自分の仕事に戻っていった。
 考えてみたら、母親としての自分が褒められたのは、これが初めてだった。どんなに若くても新米でも、「母親」はなんでも出来て普通なのだ。幼い子どもを騒がせないのは、母親として当たり前。逆に子どもが騒げば、母親が悪いと責められる。私は、いつ責められるのではないかと気を張って、疲れてイライラしてばかりいた。そんな私を、責めずに受け止めてくれたおばちゃんの優しさが、嬉しかった。
 あれから、私はあの時の「よしよし」にずっと支えられている。母親として自信を失くしそうな時、イライラしてしまう時、私はおばちゃんを思い出す。思い出の中のおばちゃんは今も温かくて、思い出すだけで、また頑張れる気持ちになるのだ。
 お母さん達は、みんな頑張っている。皆がしていることだけど、みんな立派だ。世の中がもっと、頑張っているお母さん達を褒めてあげるようになったらいいと思う。お母さん達に褒め言葉をかけてくれる人が増えたら、幸せなお母さんが増えると思うから。そして幸せなお母さんからは、幸せな子どもが育ってくれるんじゃないかと思うから。

【受賞の言葉】
 このたびはすばらしい賞を頂き、ありがとうございます。たくさんの優しさに支えられ子育てをしてきましたが、特に忘れられない体験を書きました。子育てを支えてくれる家族や地域の方の存在は本当にありがたく、感謝でいっぱいです。今はまだまだ支えられてばかりですが、いつかは支える側になって、新米お母さんに優しさの輪を繋いでいけるようになりたいと思っています。


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