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エッセイ・コンクール

第5回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

厚生労働大臣賞・最優秀賞

私を支えてくれるもの 林亜麻美【兵庫県】

 不思議なことに、子どもはきまって小児科が休診の時に熱を出す。しかしまあ、娘が幼かった頃は、さほど問題にはならなかった。夫に車を運転してもらって救急病院に連れて行けばよかったから。
 でも、今は違う。7歳違いで息子が生まれ、同時に夫が転勤になった。「転校したくない」と言う娘のために、夫は単身赴任している。そんな私にとって、息子の発熱は一大事だ。娘を起こし、2人をなんとかタクシーに乗せ、救急病院に駆け込む。そんな夜が何度あっただろう。私はそのたびに「こんな生活は無理だ」と泣いた。いや、泣いていた。そのときはまだ「大切なもの」に気がついていなかったから。
 「大切なもの」に気づけたのも、息子の発熱がきっかけだった。日曜日の昼過ぎに出た突然の高熱。ちょうど予防接種の副反応が起きるタイミングで、私は、応急処置がメインの救急病院ではなく、小児科に行こうと考えた。ご近所さんに日曜も診察しているところを教えてもらう。けれども、行ってみると「診察終了」の札が。仕方なく家に戻ったが、そうこうしている間にも熱は上がり続け、やっぱり救急病院に行くことにする。
 外へ出ると、「下がらんの?」とお向かいのママ。そして「車出すから乗って行き!」と。ビックリして断る私に、「こんなときになに遠慮してるん!ビール飲まんようにしてたんやから、乗って行き!」。私はふいに泣きそうになった。お礼の気持ちがうまく言葉にならなくて、「ああ、自分はこんなにも不安だったんだ」と思った。夫がいない間に何か起きたら、万一のことがあったら・・・無意識に抱え込んでいた不安に「1人でそんながんばらんでも」と言われた気がした。
 送ってもらう車の中で、ふと「コミュニティ」という言葉が浮かぶ。大学の授業で聞いたときには、「『しがらみ』ってやつか?」と鼻白んだっけ。あのときの自分に言ってやらなければならない。コミュニティとは「人の心が結びついた一つの形なのだ」と。そして、いつの日か、「そのコミュニティに支えられて子育てをする日が来るのだ」と・・・。
 私は娘の育児でいわゆる「密室育児」を経験した。だからこそ思う。子育てはだれかに支えられてするものだ。実際の手助けでなくてもいい。「いざとなったら助けてくれる人がいる」。そう思えるだけで、気持ちはうんと軽くなる。すると子育てが、少し楽しくなってくるのだ。
 単身赴任ライフは、まだ始まったばかり。でも、私はここで夫の帰りを待つことに決めた。「困ったことがあったら、夜中でもピンポンしたらええんやで!」と言ってくれる人たちがいるこの場所で・・・。
 大丈夫。心の拠り所があると、結構がんばれたりも、するものだ。

【受賞の言葉】
 私は「コッコママのはなまる毎日。」という子育てブログを書いています。そこで孤独感を抱えて苦しむママに出会うたびに、かつての自分を思い出します。
 駆け込んだ小児科で「お母さんは大丈夫?」と聞かれ、うれし涙が止まらなかったあの頃…。人は何気ない一言に癒され、元気になれたりするものです。
 すべてのママが、心の支えを得て、笑顔で子育てできますように。このたびは、すばらしい賞をありがとうございました。


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