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エッセイ・コンクール

第5回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

風変わりな託児所 山本信之【愛知県】

 5歳と3歳の兄弟、4歳と2歳の兄妹、両隣の可愛い子どもたちだ。今では、私の大切な友達である。
 お母さんはいずれも30代、嫁いできた人で、地元に馴染みはなく、隣にいても誰だか分からないような存在だった。
 それが、子どもが生まれ、外へ連れ出すようになると、車の通らない私の畑の道が恰好な散歩道になって様子は変わった。
 リタイア後で畑に居ることの多くなった私。当然顔を合わせる機会が増えていった。初めのうちはありきたりの挨拶程度だったが、子ども好きの私、それだけではどうも物足りない。子どもにも一言声を掛けるようになっていった。
「かわいいね」
「名前はなんというのかな」
 名前を覚えた私、次の日からは名前を呼び、着ている洋服、持っているおもちゃ等を誉める。初めは警戒していた子どもも、次第に心を開き、懐いてくれるようになった。
 子どもたちと接する時、私が一番気を使うのは名前を間違えないことだった。今風の凝った名前が多いので覚えるのに一苦労であったが、ボケ始めた頭に叩き込んだ。そして、4人に分け隔てなく話すようにも心掛けた。
 2人のお母さんとの接し方にも細心の注意を払った。付かず離れずで、今のところうまくいっているようだ。
 そんな私に、お母さんも、子どもたちも、気を許してくれたのだろう。この頃、私の畑の周りで遊んで行く時間が長くなった。
 子どもにとって、畑はいい遊び場である。土はある、様々な虫がいる。4人の幼い子どもが額を突き合わせて遊んでいる姿は、なんとも心ほのぼのとしてくる。お母さんが畑を荒らさないように注意するのを私は制する。
「どうせ遊び半分の畑仕事です。私が遊ぶか、子どもが遊ぶかのことですから」と言う。どうにもいけない時は優しく諭すが、そんなことはほとんどない。
 2人のお母さんは、畦に腰をおろして世間話に花を咲かせる。お母さんの笑い声、子どものはしゃぐ声、と私の畑は賑やかだ。
 時には、出来た野菜を分けてあげることもある。真っ赤に熟れたトマトを子どもに一つ一つ持たせてあげた時には、子も親も心底喜んでくれたようだった。そんな時には、こちらまで幸せな気持ちになれる。
 やんちゃ盛りの子育てはさぞ大変だろう。私の畑が、2人のお母さんの息抜きの場になってくれるなら願っても無いことだ。
 犬を飼っている私を子どもたちは「ワンワンのおじちゃん」と呼んで親しんでくれる。
 畑の作物も可愛いが、子どもたちはもっと可愛い。
 私は、ちょっと風変わりな託児所を開設しているような気分だ。

【受賞の言葉】
 この度は受賞の栄誉に授かり感激に堪えません。
 私は小学生の登校時に交差点で交通指導をしています。子どもの痛ましい事故を減らす一助になればとの思いからです。
 しかし、新聞紙上では毎日のように、子どもの虐待、育児放棄などの痛ましいニュースが報じられています。こんな残酷なことはありません。
 この現実を、私にはどうすることも出来ません。そこで、近所の子どもたち、お母さんと親しく親切にすることが、せめてもの子育て支援になるのでは、と考えているのです。


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