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女性研究者への支援

第5回女性研究者への支援 過去の受賞者を紹介いたします

浅田 恵美子【京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻 博士後期課程】

「不妊」をどう生きるか―当事者のローカル・バイオロジー―

 日本では現在、約47万組のカップルが「不妊」に悩んでいるとされる。子どもを持つことの意味を問われる点において、「不妊」は当事者に対して「自身の人生をどう生きるか」「人生において何を重要と考えるか」という選択を常に迫るものである。本研究は、ローカル・バイオロジーの概念を援用しつつ、異なる背景を持つ不妊体験者へのインタビュー調査を通じて、それぞれの主観的体験のあり方を、生き方との関わりも含めて明らかにすることを目的とする。「不妊」を抱えた生き方の多様性が示されることは、当事者や支援者の「不妊」のとらえ方を変容させることにも繋がると考えている。

【受賞の言葉】
 子どもの誕生と同時に大学に戻り、子育てと研究の両立に奔走してきた数年間でしたが、その中で数多くのことを学びました。ご指導いただいた先生方、支えてくれた家族はもちろん、子どもの成長をともに見守ってくれた研究室や保育関係の皆様にも心から感謝いたします。今回の受賞を励みに一層研究に邁進し、自身の時間と重ねつつ、女性の生きる時間(とき)のあり方を考えていきたいと思います。

受賞後の様子

 受賞は、周囲の方々に、私の研究内容や研究生活を知っていただくきっかけとなり、親子の状況に対する理解が深まったように思います。様々な支援の申し出をいただきましたし、助成によって託児や療育などを充実させることができたことで研究の環境も向上しました。
 研究テーマが周知されたおかげで、協力依頼が容易になり、調査を拡大できたことも大きな変化ですが、その一方、助成によって、子どもと一緒にいる時間を楽しみつつ研究を継続できたことを、ほんとうに感謝しております。
 2013年には「不妊当事者のローカル・バイオロジー」をテーマに学会発表を行い、それを論文化することを考えていますが、それらを基盤に、あと一年となった博士課程在籍中に、博士論文をまとめることも目指していきたいと思います。

助成期間を終えて

◆研究成果・研究環境の変化
 研究成果としては、助成期間中にまとめた4本の論文を学会誌および共著本に発表し、学会発表も行ったことが挙げられます。助成をいただいたことで育児環境が安定し、継続して行ってきた研究をまとめる作業が一気に進んだことが、これらの成果に繋がりました。
 研究環境の変化という点では、受賞によって研究テーマが周知されたことで、調査の協力依頼をすることが飛躍的に容易になりました。「不妊」というテーマは非常にプライベートなもので、協力者を得ることが比較的難しい分野ですが、受賞によって、調査協力のご連絡をいただける、信頼感を持って調査に協力していただけるということが増えました。
◆育児環境の変化、気づき、感想、印象的なエピソード
 以前は、研究の時間を作り出すために、託児手配に労力を注がねばならず、研究と子育てを分ける努力がかなり必要でした。しかし、助成をいただいたおかげで、子育てをしつつ研究を進めるという、研究と子育てを一体化させた環境を作り出すことができました。
 思い切ってヘルパーさんに子どもを任せる体制をとることにして、学校や学童から連れて帰ってもらった後、宿題をしたり一緒に遊んだりして過ごしてもらい、私の帰りが遅い日には夕食から入浴のお世話までお願いしました。そのため、迎えの時間を気にして研究を切り上げたり、託児施設で一人待たせたりすることもなく、子どもがきちんとケアされているという安心感を持ちつつ、研究に没頭できるようになりました。また、以前は地元で託児をして一人で行っていた週末の調査に、子どもと二人で出かけ、現地で数時間の託児手配をするようにしました。行き帰りや、現地での余暇時間を親子でゆっくり過ごし、遅くなる時には宿泊も一緒にと、圧倒的に子どもといる時間が増えました。二人で出かけた調査旅行は、娘も楽しく、私も嬉しい時間で、今となっては非常に大事な思い出です。
◆女性研究者の環境改善
 子育てをしながら研究を続ける上での一番の難しさは、研究の時間とエネルギーを確保することではないでしょうか。研究をまとめるためには長大な時間や労力が必要ですし、探索し、考察するという研究者の時間は重層的に日常の中にあり、子育ての時間とも否応なく重なってくるように思われます。私自身、そのような状況で、研究に集中する時間と労力が確保できず、また子どもとの充実した時間も持ちきれないという葛藤がありました。
 その状況を改善するために望まれるのは、研究と子育ての時間を「分ける」のではなく、むしろその労力を減らし、研究も子育てもともに行える環境を作り出すことです。移動や待機の時間をかけず、安心して子どもを委ねられる託児や保育の施設がすぐ身近にあること、育児において協力を仰げる人が家族以外にもいること。時間の区切りなく研究を続ける女性研究者にとって、そのような環境があることは非常に重要であろうと考えています。


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