ホーム > 住友生命について > 住友生命のCSR > 豊かな社会づくり > 少子化・子育て > 未来を築く子育てプロジェクト > エッセイ・コンクール > 第2回受賞作品

エッセイ・コンクール

第2回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

娘をかわいいと思える日が来るまで 中津直子【広島県】

 出産するまで、子どもを産んだら瞬時に幸せになれると勝手に思い込んでいた。
 午前二時の泣き声でそれは勘違いだと気付かされる。「うわーん」はじめはかぼそい声だが段々と大きい声に変わっていく。
 おむつかな〜。げっうんちもしてる。強く持つと壊れてしまいそうな娘の足を持ち上げおしりを拭く。次はおっぱい。手を洗いに行くが、その間も娘は泣いていて、いたたまれない気持ちになる。抱っこして、おっぱいを片方五分ずつ、各二回で合計二十分飲ませる。母乳だけでは足りてないようなので、次はミルク作り。粉ミルクを溶かして流水で冷ます。娘は「早く〜」というがごとく、泣いている。ミルクの次はげっぷ。慣れない手つきで立て抱きにして試みるが、げっぷが出ない。十五分経って諦める。さあ、寝てくれ。母の願いだ。「うわーん」号泣。なんで? どうして? おむつもきれいにしたよ、おなかもいっぱいになったよね。どうして泣くの? という疑問符が頭の中をぐるぐるまわる。気が付くと二時間経っている。新生児は三時間おきに授乳するので、一時間後また授乳だ……とイライラが増長する。ベランダで子守歌を歌い、泣く我が娘を抱きながら涙がぽろぽろ出た。娘がかわいいと思えない。「かわいいよね」という夫の言葉に腹が立つ。虐待する人の気持ちがよく分かる。こんなんじゃ母親失格だ。他の人はこんな風に思うわけがない。出産後一ヶ月、幸せに満ち溢れるはずだった私は、心身共にぼろぼろだった。
 そんな私が変わったのは町内の子育て支援サークルに行き出してからだ。
 七月、蝉の鳴き声がうるさいくらいの日だった。「暑い中、よく来てくれたね。」
 私と娘を迎えてくれたのは自分の母親くらいのボランティアの人だった。児童館にマットが敷いてあり、赤や黄色の原色のおもちゃが所狭しと並んでいた。一時間、他のママたちやボランティアの人たちと話をすることで、イライラしていた私は、穏やかな気持ちになっていった。
 そんな私の気持ちが伝わったのか、娘は「あーあー」と笑いながら声を出す。
 「いい声が出とるね。家でもママがよくお話してるんだね」とボランティアの人が言ってくれて、初めて認めてもらった気がした。
 私は子どもを産むまで一円でも自分が得をするように生きてきた気がする。このボランティアの人たちはどうだろう。暑い中、児童館まで来て、会場を準備して、ママたちの話し相手になる。時には愚痴を聞き、時には悩み相談を受け、笑顔でママたちを送り出す。
 ただただ、感謝、感動した。私も自分中心でなくて、人の役に立つことができる人間になりたい。娘に恥ずかしくない生き方をしたい。月に数回ほっとできる場所を見つけた。こうやってサポートしてもらい、今の私は、誰がなんと言おうと世界一娘がかわいい、私は幸せだと胸を張って言える。

【受賞の言葉】
 素晴らしい賞をいただき本当にうれしく思っています。この喜びを育児サークルのボランティアの方に感謝とともに伝えたいと思います。また、日ごろ私を支えてくれる夫や両親、義理の両親、そして愛しい娘に改めて感謝したいと思います。


ページの先頭へ戻る