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エッセイ・コンクール

第4回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

厚生労働大臣賞・最優秀賞

子育てって、なんだろう? 長坂知穂【静岡県】

 今年の夏も、「中学生保育体験」に参加した。私は一人っ子だ。去年参加した時には、どう扱っていいのかわからずに、園児達にやられ放題だった。見かねて保母さんが、助け舟を出してくれたほどだ。要するにリベンジだが、「あそぼー!」「あそぼー!」とあっという間に両腕には園児達がぶら下がり、よじ登られて、私は時期外れのクリスマスツリーになった。子悪魔健在だ。泣いたり喚いたり、服を脱がすのを手伝おうとすると笑って逃げて、鬼ごっこに・・・。夕方にはへとへとだ。母にその話をすると笑って、「懐かしいわね。あんたも大変だったのよ。」と言いながら、少し真面目な顔をして、「もう、あんたも大きくなりつつあるし・・。」と話をしてくれた。
 我が家は母子家庭だ。父親は記憶に無い。私が2ケ月の時に離婚したからだ。
母は続けた。
 「あんたの発熱で休んだりすれば、会社で『子どもがいるから』と、後ろ指差されたり、丁度不景気でリストラの対象すれすれだった。私の腕には子どもとの生活がかかっている。必死だった。帰宅は夜中。夜、おむつを洗ってね。洗濯機は調子が悪くて脱水がしっかり出来ない。お金が無いし、長屋で外に洗濯機はある。冬は凍るような水の中に手を突っ込んで、おむつを絞る。サンダル履きの足にしぶきがかかって、足が真っ赤になる。くたくたで、もう毎日くたくたで、でも朝早くから遅くまで頑張っているのに、発熱の子を迎えに行かぬ鬼母と保母さんはなじるし、会社は休ませてくれない。夫との離婚調停は進まない。涙が出て辛くて辛くて、死んでしまいたいと思った。」母は溜息をついた。
「息を殺して泣いていたらね、軒のくっつく長屋、気が付いたんだね。向かいの馴染みのおばさんが出てきて、『あんた、どうしたの』って。溜まっていたものを全部吐き出して、『うん。うん。』って聞いてもらってね。一人で子育てしている気持ちになっていたけど、そうじゃないことがはっきりわかったの。お前も子どもを持つようになったら、この話を思い出して欲しいの。」
 自室の扉を閉めて私は考えた。今子供の虐待が、新聞によく出ている。もしかしたら、若い頃の母のような人が、増えているのかもしれない。透明な卵の殻の中に、子どもと母親のワンセット。空気が少なくて喘いでいる。保育体験で困っていたら、声をかけてくれた保母さんがいた。呼び止めたら答えてくれる母親達もいた。だから、窒息して死んでしまう前に、殻を割って出てきて欲しい。中学生の私が言うのもおこがましいが、子悪魔達との時間は大変で、とっても嬉しかった。子育てって、きっととっても大変なものなのだろう。でもかけがえが無く、とても楽しいものでもあるはず。私はそう思っている。

【受賞の言葉】
 このたびは素敵な賞を頂き大変うれしく思っております。
 幼稚園の子供達と遊ぶようになってもう半年が経ちました。最近は幼児につれられて小学生(一・二年生)ともふれあうようになりました。そして相変わらずの子悪魔っぷりです。そのためかいつもヘトヘトになる毎日ですが、子供達と過ごす時間を私はいつも貴重なひとときと感じます。
 「嫌だなぁ」と思う日もありますが、これからも積極的に子供達と交流していきたいと思います。


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