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エッセイ・コンクール

第4回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

笑顔の連鎖 桝岡桃子【東京都】

 生後5ヶ月の娘・メイをベビーカーに乗せて、電車でお出かけしたときのことでした。何も考えずに乗った車内は、なにやら気まずい雰囲気が漂っていました。子どもも、親も、おばちゃんも、おじちゃんも、おばあちゃんも、おじいちゃんも、車内にいる全員が迷惑そうな顔でちらちら、一角を見ているのです。
 その一角には、8人の若い男女が我が物顔で床に座り込んでいました。いわゆるコギャルとヤンキーといった感じで、メイクをする子、キラキラの携帯をいじる子、流行の歌を歌う子など等、台風のような騒々しさがそこにはありました。私は、彼らの目の前のドアから入ってきてしまったのです。
 暴風域直撃!!車両を変えたくてもあからさまに移動するのも気が引けてしまい、結局は私も彼等をなるべく見ないように(でも横目でちらちら見て)早く目的地に着くことを祈ることにしました。
 そんな中、私が一番恐れていたことが起こってしまいました。今までご機嫌だったはずのメイが泣き出してしまったのです。一斉に視線が私たちに向けられました。もちろん、あの一角からの視線も突き刺さりました。
 私は、冷や汗を掻きつつ必死にメイをあやしましたが、泣き声はますます大きくなり最悪の状態に…。と、突如メイの前にピンクの物体がにょきっと現れました。「え?」と、私はその物体をいぶかしげに見ると、それはピンクや赤や透明のクリスタルで飾りつけされたデコ携帯でした。デコ携帯を揺らすと、光が反射した水面のように優しく光り揺れ、メイはいつの間にか泣き止み夢中になってそのキラキラを見ていました。
 デコ携帯であやしてくれたのは、例のグループにいたコギャルでした。「うちの弟、ヒカリモノ好きだったから」と慣れた様子でメイをあやし続けました。そして、メイは満面の笑みを浮かべ、彼女に手を伸ばしたのです。「ほらね?」と彼女が私に向けた笑顔は、「あやしの先輩」としての自信と逞しさがありました。
 「かわいいー!」と、彼女の後ろからは他のメンバーたちが顔を出し、「私の方がキラキラだしー」と自身のデコ携帯をメイに見せました。色々なキラキラがメイの前に現れ、メイはきょろきょろ、口をポカーンと開けよだれをたらす始末。そんなメイに、みんな爆笑。「よく見ると、みんなまだまだ幼い顔してんじゃん!」と、彼等の屈託のない笑顔に私も思わず笑顔になりました。
 ふと顔を上げると、今まで重苦しかった空気が一変、車内の人たちが我々の様子を微笑みながら見ていたのです。この車両に入ってきてよかった。笑顔の連鎖の源になったわが子が誇らしく思えた時間でした。

【受賞の言葉】
 この度は素晴らしい賞をいただき本当にありがとうございました。 人と人とが笑顔でつながり、生み出される「笑顔の連鎖」は、大なり小なりいつもどこかで起きています。気づかなければそれまでだし、気づけば胸がほっこり温かくなる。娘が生まれて以来、見落としがちな小さなできごとにハッとし、感謝し、温かい気持ちになることがとても多くなりました。これからも、そんな気づきを大切にしていきたいとおもいます。


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