スミセイ“Vitality Action”

住友生命

Column

vol.3

運動が脳機能に与える影響について

運動が認知予備力や学習能力を高めることについて研究している
首都大学東京の西島壮さんにお話を伺いました。

西島 壮さん(にしじま・たけし)

首都大学東京・准教授

専門分野:スポーツ神経科学

「運動と脳の関係」を研究しようと思われたきっかけは何ですか。

西島壮(以下西島)大学生の時は、体育の教員になろうと思っていました。しかしその頃、運動と脳の関係についての研究が世界的に注目されるようになり興味をもちました。日本では、運動部の子どもは運動だけしていればよいといった考えや、受験勉強の為に運動をやめるなど、運動が勉強の妨げになるような風潮がみうけられることを危惧していました。もし、運動することで脳機能が高まる等プラスの影響を解明できれば、体育やスポーツの価値を高め、運動に取り組む人を増やせるのではないかと思い、脳科学についての研究を始めました。

西島先生の研究についてお聞かせください。

西島運動によって脳に生じる変化を細胞・分子レベルで調べたり、逆に運動しない=不活動の状態が脳にどのような悪影響を引き起こすかなどを調べています。

体を動かさない(不活動だ)と脳にどんな影響があるのですか。

西島体を動かさないこと(不活動)を、うつ病やアルツハイマー病の一要因に挙げる研究があります。特にアルツハイマー病では第一の危険因子になると指摘する研究データもあります=グラフ参照。また身体活動量が多いほど、うつ病も発症しにくいという研究もなされています。

アルツハイマー病の危険因子

Barnes DE, Lancet Neurology, 2011

なぜアルツハイマー病やうつ病と運動が関係しているのでしょうか。

西島記憶や学習をつかさどる脳の一部位を専門用語で「海馬(かいば)」といいますが、実はこの海馬がとても運動と関係があるのです。体を動かすと海馬の機能は高まり、逆に動かさないと機能は低下します。海馬はストレスを和らげる働きもするので、その機能が弱まるとストレスのダメージを受けやすくなりうつ病などを誘発する危険性が高まると考えられます。私たちが思っている以上に運動は脳と深い関係にあります。

子どもにとっても運動は有効でしょうか。

西島最近、運動して学力が上がったという研究結果が報告されるようになりました。特に数学に対して効果が大きいという結果もあります。また子どもが運動するようになると注意散漫な態度が減るなど、授業態度が改善するという報告もあります。

体を動かす貴重な機会に学校の体育の授業がありますが、運動好きの子を育てる機会としては十分ではないかもしれません。授業で試合をすると優劣がついたり、得意・不得意がはっきりしてしまうので、運動が苦手な子は体育の授業をきっかけに体を動かすこと自体を嫌いになってしまうこともあるようです。そうなると健康にとっては生涯にわたる大きな負債をかかえることになりかねません。だからといって、競争させること自体がいけないわけではないので、授業の内容や成績評価の工夫など注意深い配慮が必要ですね。

子どもを運動好きにするにはどうしたらよいのですか。

西島子どもたちに「運動は楽しい」と思える機会をつくってあげることが大事です。「運動が楽しい」と思う理由は一人一人異なります。例えば、親と一緒にスポーツクラブに行くのが楽しいから運動好きになる子や、体育は苦手だけど部活は楽しいという子もいます。私自身も中学からバドミントンを続けてこられたのは、(試合で勝った時の喜びはもちろんですがそれ以上に)友人や励ましてくれる先輩、指導者の存在が大きかったと思います。私は体育の授業も担当していますが、そこでは学生同士の積極的なコミュニケーションが増えるように、ペアを毎回替えたり経験者が初心者を教える機会を作ることを大切にしています。

その意味で、住友生命さんが健康増進のために「たいせつな人とカラダ動かそう」と呼び掛けている社会貢献事業「スミセイ“Vitality Action”」は、着眼点がとても素晴らしいと思います。

運動の動機にもいろいろあるのですね。

西島運動する動機は楽しいから自発的に行う、健康のために行う、ポイントなど報酬のために行うなどとさまざまです。運動する動機は何でもかまいませんが、やはり自ら楽しいと思えることが長く続ける秘訣だと思います。

どのくらい運動すればいいのでしょう。

西島決して「運動」にこだわる必要はありません。厚生労働省が定める「健康づくりのための身体活動基準」では、歩くかそれと同等以上の身体活動を1日60分以上行うことを勧めています。生活の中で歩く時間を増やすことも大切ですし、子どもと遊んだり家事などで体を動かすことも大切な身体活動です。

最後にメッセージをお願いします。

西島皆さんに好きなスポーツを1つ見つけてほしいと思っています。そのためにも、いろんなスポーツにどんどん触れてみてください。大好きなスポーツが1つ見つかれば、それは人生において健康を獲得したといってもいいと思います!