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「もしかしたら幼稚園駄目かも」いつも強気な妻が弱音を吐いた。娘は骨が折れ易いという先天的な疾患で幼稚園入園の歳でもまだ歩けなかった。それ故随分早くから幼稚園の受入を考えた妻は、長男が卒園した幼稚園の入園前保育に足繁く通い、受入の手ごたえも何度か聞いていた。それが、願書受付の1週間前にこんな話だ。二人で行った方が、熱意が伝わるのでは、と、私も仕事を休んで一緒に幼稚園にいく。しかし、幼稚園側の対応はまるっきり後ろ向きだった。「責任が持てない」と言う言葉に「責任を持ってもらおうと思っていない」とまで話したが、どんな会話も流れるばかりだった。
「どうしよう」駄目だった結果を抱え、呆然とした。娘は幼稚園に入るのを本当に楽しみにしていた。「他を当るしかないよね」、意見は一致した。とは言え、願書受付まで1週間。時間がない。私もそうは仕事を休めない。「とにかく当れるところを当ってみよう」と、私たちはその足で市内の幼稚園を回った。
「うちでは設備がないので」「今までに受入れた経験がないので」どこもそんな回答だった。もう夕方が近かった。幼稚園も閉まってしまう寸前、これが最後と5件目に伺った幼稚園で初めて正面から受け止めた反応を得た。園長が不在だった為、後日改めてということになったが、私たちは希望を持って帰路につくことが出来た。
翌日、受入を前提に子供を連れてきて欲しいという連絡があったことを妻から聞く。週末に園長先生とお会いした。「設備は不足かもしれませんが、私たちも一生懸命考えます。ご両親も一緒に考えましょう。この子の為に、いい幼稚園生活を創っていきましょう」そう仰って頂いた。
翌春、晴れて幼稚園生になった娘は、全力で幼稚園生活を楽しんだ。歩けない不自由を沢山の工夫と協力で、新しい自由に変えていった。年中の運動会は、本番2週間前に左腕を骨折してしまい、腕を吊っての参加になった。それでも全種目片手で出来る方法を考え出し、見事に完全参加した。年長の運動会には、恒例の全員参加のリレーがあった。スタートを任された娘が必死に車椅子をこぐ姿、友達の声援、拍手・・・。勝手に涙がこぼれた。運動会の最後、園長先生が「みんなが頑張った、本当にいい運動会でした」と、声を詰まらせた。三人の子供の運動会に皆勤したが、そんな運動会は初めてだった。そこにいられることに深く感謝した。
卒園までの間、何度かの骨折があった。その度に周囲に沢山の動揺があった。でも、みんなでそれを乗り越えた。一番つらいはずの本人も、いつも笑顔で良く頑張った。
トライすること。全ての子育てが、常に初めてとの戦い、トライの連続だと思う。これからも、怖がらず、決して諦めず、そして大いに楽しんでトライしていきたい。
【受賞の言葉】
末娘も小学校3年生、身体も随分大きくなりました。まだ歩くには至りませんが、自分の出来ることには、思わず笑ってしまうくらい、力の限り体当たりしています。そのエネルギーに、私は沢山の元気をもらっています。いつまで一緒に遊んでくれるものか、少々不安ですが、行けるところまで、力いっぱい子供たちとの時間を楽しんでいこうと思っています。今回は、このような素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございました。