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エッセイ・コンクール

第4回エッセイ 過去の受賞作品を紹介いたします

最優秀賞

小さなお手て、大きなお手て 森千恵子【福岡県】

 どの地域にも高齢者が多くなり、核家族も増えています。孤立化を避けるため、ふれあい運動に取り組んでいる校区もあるようです。幼稚園や学校にお年寄りを招待し、大きな歳の差の交流を進めています。そんな中、ある出会いが私にも、幼子とのふれあいをもたらしてくれました。
 働くお母さんが多くなり、私の娘も二歳になった息子を預けて仕事を再開しました。保育園の協力を得て、子供たちの日常が成り立っているのです。私にも、娘と一緒に孫を送る楽しみができ、園での生活を見聞きする機会が増えました。昔とは様変わりしつつある子育てを見て、時代の変化を感じています。
 保育園の朝は、母親と子供の別れのセレモニーで賑やかです。泣き叫ぶ子もいます。涙目で足早に門を出る母親の姿に、子育てと仕事を両立させる苦労が伝わってきます。(この光景が、笑い話になる日が早く来るといいね)私は、心の中で呟きました。
 運動場で、孫の大好きな体操が始まりました。私にも、一緒にして欲しいと言うので、園児たちの後ろで参加しました。ちょっと恥ずかしい気もして、先生方に見えない事務室の陰でした。子供の体操とはいえ汗だくになり、動作もなかなか覚えられません。園児たちの間では、「体操をするおばあちゃん」と、噂になっていたようです。
(後ろの私に、気付いていたのかしら)
 ある日、一人の女の子が走って来ました。
「おばあちゃん、もう体操覚えた? いつも同じ所で間違うでしょう。いい、こうよ」
 私が間違うところを、指導してくれたのです。子供のアンテナは全開で、ちゃんとチェックが入っていたようでした。大勢の園児が話しかけてくれ、私の日常に朝の嬉しい時間が加わりました。風邪を引き、しばらく朝送りを休んだ時のことです。久し振りに園に行くと、あの女の子が飛んで来ます。
「おばあちゃん、風邪よくなった?」
 私の肩をトントンと叩いてくれました。
「お元気になられましたか。また、一緒に体操をなさってくださいね」
 園長先生も見ておられたようでした。
「また一緒に体操しようね。お約束だよ」
 女の子の可愛い手が、私の手を握ります。
「小さなお手て、大きなお手て、お手てとお手てで、仲良しこ良しのお約束!」
 私が唄いながら手を合わせると、女の子がとびきりの笑顔を見せて、運動場へと走って行きました。(さあ、私も頑張ろう)
 子育ては、千差万別です。子供一人一人の個性とゆっくり向かい合って、前に進んでいくことだと思っています。微力ながら、私も少しだけ子育てのお付き合いができ嬉しくなりました。小さな友達を持つ私は、とても幸せなおばあちゃんなのです。

【受賞の言葉】
 手術をし、入院中に入賞の知らせをいただきました。嬉しくて病室の窓から夜空を見上げると、家族の喜ぶ顔とともに小さな友達の顔がつぎつぎと浮かびました。孫を通して仲良くなった彼らとの思い出は、私にとって生涯の宝物です。未来を担う子供たちが、元気で楽しく過ごせるような世の中であって欲しいと、心から願っています。


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