◆研究成果・研究環境の変化
子育て中の研究者の生活は、研究と育児という両輪で動いています。以前は、前輪を回す時は、後輪を止めるという具合に、研究と育児の時間を分けていました。研究者としてのキャリア形成と育児とが、異なる方向に向かっているような気がしてならなかったからです。本助成によって、研究と育児が、初めて二輪駆動で前に進めたような気がします。海外調査、宿泊を伴うセミナーや学会に子どもを連れて参加し、学術交流の場にも積極的に加わるようになりました。研究と育児の時間を切り替えるよりも、ともに行う環境を作ることができました。
◆育児環境の変化、気づき、感想、印象的なエピソード
夫は旧チェコスロヴァキアの出身で、母語はチェコ語とスロヴァキア語です。娘にも、ぜひ母語を話せるようになって欲しいという夫の希望から、母親とは日本語、父親とはスロヴァキア語というルールを決めたのですが、娘はスロヴァキア語を話そうとはしませんでした。夫も、嫌がる娘と会話を続けることが億劫になり、日本語に戻ってしまうことがよくありました。本助成によって、子連れで海外調査に行くことができました。娘は、スロヴァキアに住む祖父母の元で過ごしました。祖父母に預けて二週間もしないうちに、スロヴァキア語を話しはじめ、幼児の言語の獲得の早さに驚きました。今では、父子の会話がスロヴァキア語で成立するようになり、彼女なりに両親の母語を認識し、使い分けているようです。
◆女性研究者の環境改善
大学では、学内保育園施設の設置、育児休暇の取得など、子育て世代の研究者を助成、支援する制度が年々拡充しており、ハラスメントへの問題意識も高まっています。しかし、環境、待遇改善を求めているのは、大学等の研究機関に所属している研究者です。実際は、声を上げることすらできない「特定の研究機関に所属していない」研究者も多くいます。
特定の所属がないことで、図書館や保育園の利用、外部資金の応募、研究プロジェクト等への参加が阻まれることがあります。学問の裾野を広げていくためにも、特定の研究機関に所属していない研究者の研究環境の確保と維持するための施策が必要だと思います。
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