サステナビリティ座談会
社会へのインパクトを生みだし、「なくてはならない」保険会社グループへ
住友生命グループは、「ウェルビーイングへの貢献」を掲げ事業領域を広げている中で、どのように社会へインパクトを生み出していくのか。
グループ全体の戦略推進を担当する山口執行役員をファシリテーターとして、データサイエンティストとしてデータの解析・可視化に取り組む田渕さん、機関投資家としての責任投資の取組みを推進する佐藤さんから、お話を聞きました。
<プロフィール>
執行役員兼企画部長
山口恵司 (ファシリテーター)
運用企画部責任投資推進チーム
部長代理 佐藤文宣
情報システム部システム業務室兼新規ビジネス企画部
データサイエンスオフィサー付
田渕聡一郎
健康データを活かした分析
執行役員兼企画部長
山口恵司
山口
住友生命は、「住友生命グループVision2030」で2030年時点のありたい姿を、「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」と定めました。2025年4月からは「スミセイWX(ウェルビーイング・トランスフォーメーション)」と題して、一人でも多くの方にウェルビーイングの価値をお届けする「量的進化」と、一人ひとりに提供するウェルビーイングの価値を高める「質的深化」を通じて、多くのお客さまにもっとウェルビーイングを感じていただくことを目指すトランスフォーメーション(変革)を進めています。
住友生命ではウェルビーイングを「一人ひとりのよりよく生きる」と定義し、社会や地球環境、ビジネスパートナーや従業員など、それぞれのステークホルダーのウェルビーイングへの貢献を目指しています。一人ひとりにとって異なる「ウェルビーイング=よりよく生きる」の価値の向上にどのように貢献しているのか、数値やデータを用いて社会へ示していくことが重要になってきます。今日はまず、データサイエンスの手法を用いて健康状態の分析や指標化に取り組んでいる田渕さんに、お話を伺いたいと思います。まず、データサイエンスとはどのような手法なのでしょうか。
田渕 私たちの身の回りでは、日々様々なデータが蓄積されていますが、蓄積するだけでは役に立ちません。データサイエンスとは、蓄積されたデータを解析することで、そこから有益な傾向やつながりを発見し、課題解決や意思決定に役立てようという学問分野です。私たちは現在、「Vitality」や健康に関するデータを用いて、健康上の問題がなく生活できる年齢を個人単位で計測するスミセイ版健康寿命の開発や、「Vitality」を通じてどれだけ健康状態が良くなるのかの検証などを進めています。
山口 目には見えない、世の中に存在する傾向やつながりを、データを使って数値化、可視化するということですね。当社が蓄積してきた様々なデータや情報の価値を引き出すという観点からも、重要な取組みです。
熱中症リスクの原因を探る「熱中症白書」
山口 健康データの分析に関して、先日、熱中症リスクに関しての分析をまとめた「熱中症白書」をリリースしたということですが、制作するにいたった背景はどのようなものでしょうか。
情報システム部システム業務室兼
新規ビジネス企画部
データサイエンスオフィサー付
田渕聡一郎
田渕 気候変動の影響により、日本では平均気温が年々上昇しており、2024年の平均気温は1989年の統計開始以降で最高となりました。それに伴って熱中症リスクも年々高まってきています。「熱中症白書」では、熱中症の発症や入院、重症化に影響を与えるような生活習慣や普段の行動を、医療ビッグデータ・解析力・臨床目線を組み合わせ分析し、熱中症に対する適切な対策や予防策を世の中に発信することを目的に制作しました。
山口 「熱中症白書」では、具体的にどのような分析を進め、どのような示唆を得ることができたのでしょうか。
田渕
熱中症リスクを防ぐために私たちが出来ることについて、「三つの防衛ライン」に沿って整理しました。第一の防衛ラインは温暖化を引き起こす気候変動への対応、第二の防衛ラインは日々の生活の中で行う健康増進活動や体調管理、第三の防衛ラインは実際に熱中症になった場合に備える「保障」です。
今回の「熱中症白書」は、特に第二の防衛ラインに着目しています。日々の健康増進活動や体調管理が、どのように熱中症リスクに影響するのかを、熱中症の診断率および重症化率と生活習慣との関係性の観点から分析を行いました。
田渕 分析の結果、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療薬を使用されている方は、そうでない方に比べて熱中症リスクが高い傾向にあることが分かりました。また、日常生活において1日1時間以上の歩行やそれに相当する身体活動を実施することで、熱中症リスクを低減できるという分析結果も得られています。
山口 熱中症の予防には、こまめに水を取ることや、就寝時に我慢せずにクーラーをつけることなどが有効と言われていますが、こうしたいわゆる「熱中症対策」だけでなく、私たちの日々の健康増進活動そのものも、熱中症のリスクを低くすることにもつながっているということですね。当社が提供するVitalityプログラムでは健康増進の後押しをしていますが、健康増進活動が生活習慣病を防ぐだけでなく、熱中症予防にも有効であるというのは新しい視点だと感じました。こうしたつながりを、データを用いて実証できたことは、社会的にみてもインパクトがあったのではないでしょうか。
田渕 今回の「熱中症白書」は、2025年4月の公表後、さまざまなニュース媒体で取り上げていただき、その反響の大きさに驚かされました。文書形式の「熱中症白書」だけでなく、イラストやグラフを交えた「インフォグラフィック」も制作したことで、多くの方に見ていただけたのかと思います。また、熱中症が今年も4月から5月にかけてかなり大きな話題になっていたことも後押しになりました。
山口 話題となったと言えば、当社の子会社のアイアル少額短期保険はPayPayほけんを通じて「熱中症お見舞い金」をご提供していますが、連日の猛暑による熱中症への危険性が高まっていることを背景に、多くのお客さまからご好評いただいております。こうした万が一熱中症にかかってしまった際の保障が、第三の防衛ラインということですね。
「責任投資」を通じた機関投資家としての社会課題解決
山口
さて、熱中症リスクを防ぐための、健康増進や保障などの対応策についてお話いただきましたが、社会全体で熱中症リスクを抑える環境をつくっていくためには、地球温暖化を防ぐための取組み(第一の防衛ライン)が重要です。
住友生命は、2050年の温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロを目指し、事業活動からのGHG排出削減等の取組みを進めるとともに、機関投資家として社会・環境課題を解決する取組み「責任投資」を推進しています。佐藤さんは責任投資の推進を担当されているということですが、まず責任投資がどのようなものであるのか教えてください。
運用企画部責任投資推進チーム
部長代理 佐藤文宣
佐藤
「責任投資」という言葉は、気候変動問題をはじめ様々な社会課題が顕在化する中で、金融の力でそれらの課題解決を図ろうとする考え方から生まれました。特に2006年、当時の国連事務総長が責任投資原則(PRI)を提唱したことで、国際的に広く認知されるようになりました。 2015年には、地球温暖化を抑制するための世界的な合意であるパリ協定や、持続可能な開発目標であるSDGsが採択され、社会や環境課題の解決に向けた機運が益々高まりました。
当社は「社会公共の福祉に貢献する」ことを創業以来からのパーパス(存在意義)として掲げ、例えば、戦後の産業復興のための投融資など従来から公共性を考慮した資産運用をしていましたが、より社会課題の解決に貢献すべく、2019年に責任投資原則に署名し、社会課題の解決に資する責任投資を本格化しました。
山口 当社は昔から公共性の高い事業を行うという認識のもと、その時代に合う形で色々と中心となる投融資先を変えながら社会課題の解決に取り組んできた歴史があります。一口に社会課題といっても様々な問題があると思いますが、具体的にはどういった分野への投資を重視しているのでしょうか。
佐藤
現在、住友生命はグループVision2030を掲げ、一人でも多くの方の「ウェルビーイング」に貢献することを目指し、特に注力する領域をウェルビーイング貢献領域としておりますが、責任投資においても、この貢献領域と整合的な「気候変動」、「ヘルスケア」、「人的資本」、「インフラ投資」の4領域をサステナビリティ重点領域とし、投融資を通じてウェルビーイングへの貢献を目指しています。
特にSDGs達成に向けた社会課題解決を目的とし、これら4つの領域への貢献に資する案件については、ESGテーマ型投融資と位置付け、スミセイ中期経営計画2025の期間(2023年度~2025年度)における具体的な目標金額を定めています。そのうち、気候変動への対応については、気候変動対応ファイナンスとして目標金額を定め、推進しています。
主な投融資事例としては、再生可能エネルギーの開発に取り組んでいる企業・事業への投融資や、GHGの吸収源となる森林を投資対象として運用するファンドなどです。また、社会全体でカーボンニュートラルを実現するためには、一足飛びにGHGの排出削減が困難な企業に対して、移行(トランジション)段階における資金面のサポートも重要です。長期的な戦略に沿って排出削減を行う企業やプロジェクトへの投融資を、「トランジション・ファイナンス」と呼びますが、投融資先の移行戦略や資金の使い道を十分に確認した上で、積極的に取組みを行っています。
山口 具体的にどの程度の金額を投資しているのですか。また社会に対するインパクトが生まれているのでしょうか。
佐藤
ESGテーマ型投融資については、2025年度までの3年間で累計7,000億円の目標を掲げていましたが、積極的な取組みにより、達成の目途がついたこともあり、2025年3月末には、3年間累計で1兆円※と目標を引上げ、取組みを加速させています。
またファイナンスの実行額が目標に達したのでそれでよい、という話ではなく、最終的に投融資先でどのように社会課題の解決につながったのか、どのような効果が出たのかを計測し、ウェルビーイングの基盤となる社会や地球環境のサステナビリティに繋がっていることを確認することが重要と考えています。
- ※対談後、2025/9末時点で3年間累計1兆円を突破しており、引き続き更に推進している。
山口 なるほど。「質」の計測が重要なのですね。どのような「ものさし」で質を計測しているのでしょうか。
佐藤
例えば先ほどの再生可能エネルギーや森林に関する投融資であれば、投融資先の取組みによってどれだけGHG削減につながったのかを、投融資先の開示を元に、インパクトとして計測しています。
投融資を通じて、社会にどれだけ正の「インパクト」を与えたのかを、しっかりと計測して開示していくことが重要と考えており、こうした計測結果は、「責任投資活動報告書」を通じて公表しています。
山口 インパクト投資という投資手法があると思いますが、ESGテーマ型投融資との違いや具体的な投資事例を教えて下さい。
佐藤
インパクト投資は、社会課題解決に繋がるという点は他のESGテーマ型投融資と共通ですが、社会課題解決への具体的な効果にコミットした投資手法であり、インパクト計測・開示のプロセスに加え、想定していたようなインパクトが出ていない場合などにおいて、投融資先にエンゲージメントなどで改善を促すインパクト管理というプロセスが実装されています。
具体的な事例として、株式会社ユカリアへのインパクト投資(上場株式)を紹介します。日本の医療・介護業界においては、医療機関の7割が赤字経営であるなど様々な諸課題が存在します。株式会社ユカリアは、病院の経営支援・運営支援をする「病院経営サポート」事業を起点に、医療・介護業界の効率化に係るデジタルソリューションの開発・提供など、医療・介護施設に対し、総合的な経営支援サービスを提供することを通じて、持続可能なヘルスケア産業を目指し、インパクト創出に注力しています。
山口 気候変動や医療など、出資をする分野によって目指すインパクトの中身は変わってくるのではないですか。
佐藤 気候変動はGHGという単一の指標があり、比較的に定量化が容易です。一方、それ以外の領域にはまだまだ計測における課題が存在しますが、4つのサステナビリティ重点領域におけるインパクトの分かりやすい開示を目指しています。例えば、医療に関する投融資であればどれぐらいの受益者があったのかなどを、インパクトとして計測しています。
山口 投資例であげていただいたように、社会課題を解決するためにただ投資をするのではなく、投資の効果をそれぞれの投資先や目指すインパクトごとに計測することができると、当社が機関投資家として社会にどのようなインパクトを与えているのか示すことができると思います。社会全体でウェルビーイングな状態を目指すためにも、重要な取組みですね。
ウェルビーイングを届けるための想い
山口 最後に、当社が社会へ更にインパクトを与え、より多くの方のウェルビーイングに貢献するにあたって、お2人から、これからの展望や挑戦したいことを聞かせてください 。
田渕 今まで一般的に「恐らくそうではないか」と言われてきたものであっても、データを通じて可視化し、実際に理にかなったものだと世の中に示すことは、大きな意味があると考えています。住友生命には、様々なデータが蓄積されていますが、そこから得られる有益な価値はまだ全て出し切れていない状態だと感じています。今後、そうした数値や健康データも活用して、お客さまや世間の皆さまのウェルビーイングに貢献するような分析を行っていきたいと思います。またデータサイエンティストとして、単にデータを分析するということにとどまらず、私にしか出せない視点で分析の方向性や価値を得られるようになりたいと考えています。
佐藤 自分自身、これまでの営業拠点や東日本大震災の際に盛岡支社で勤務していた経験、そして資産運用部門で責任投資を推進している現在の職務から、お客さまより保険料をお預かりし、将来の保険金等に備えて資産運用を行い、そのお支払いに至るという、生命保険会社のバリューチェーン全体に関われていると感じています。その中で、このバリューチェーン全体が、「社会公共の福祉に貢献する」というパーパスのもと、社会への貢献に繋がっていると実感しています。資産運用に携わっている現在は、安定的な運用収益を得ることはもとより、責任投資を通じて社会課題の解決との両立を図ることがミッションになります。お客さま一人ひとりのウェルビーイング実現にも繋がることから、引き続き、この取組みに注力していきます。また、その効果について、お客さまを含むステークホルダーの皆さまが実感できるようにお伝えしていく必要があると感じていますので、社会的インパクトの可視化をさらに進めていきたいと考えています。
山口 私も含めた三名は所属する部署や担当する業務は違いますが、目指すゴールは、一人でも多くの方の「ウェルビーイング=よりよく生きる」に貢献していくことだと思います。ウェルビーイングへの貢献を進めるための土台になるのが、サステナビリティ経営の推進です。持続可能な社会、さらにはスミセイファンで溢れている未来に向けて、皆で頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

