気候変動への対応
住友生命では、地球環境は持続可能な社会の基盤になるとの認識のもと、事業活動において生じる環境負荷の低減や生物多様性等に配慮するとともに、脱炭素社会への移行を促すことで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献します。
カーボンニュートラル社会実現への貢献
温室効果ガス排出量削減目標
住友生命は、温室効果ガス(以下「GHG」)排出量の2050年ネットゼロを目指しています。また、中間目標として2030年の削減目標を定めています。住友生命単体の事業活動で使用する電力について、2030年度までに100%再生可能エネルギー化を目標に定めています。
2050年目標 | GHG排出量ネットゼロ【グループ全体※1】 | |
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2030年中間目標 | Scope1+2+3※2 | 2019年度対比▲50%【グループ全体】 |
資産ポートフォリオ※3 | 2019年度対比▲50%※4【住友生命単体】 |
- ※1住友生命および連結決算の対象としている子会社が対象。
- ※2Scope1、2、3とは、GHGプロトコルが定める、事業者のGHG排出量算定報告基準における概念であり、以下を指す。
・Scope1:住友生命グループの燃料使用による直接排出量
・Scope2:住友生命グループが購入した電気・熱の使用による間接排出量
・Scope3:Scope1、2以外の事業活動に伴う間接排出量
なお、Scope3は、住友生命グループや住友生命グループ職員の積極的な取組みにより削減を目指す項目を対象とする。対象は、カテゴリ1(購入した製品・サービス)、カテゴリ3(Scope1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動)、カテゴリ4(住友生命グループが費用負担する輸送、配送)、カテゴリ5(事業から出る廃棄物)、カテゴリ6(従業員の出張)、カテゴリ7(従業員の通勤)、カテゴリ12(販売した製品の廃棄)とする。カテゴリ13(リース(下流))、カテゴリ15(投資)については、「資産ポートフォリオ」からの排出量として、別途管理する。 - ※3対象資産は2050年を「国債等を除く全資産」とし、2030年を「国内外の上場株式・社債・融資・投資用不動産・インフラ投資」とする。対象Scopeは投融資先のScope1、2とする。削減指標は資産規模の影響を排除して評価するため「インテンシティ」(保有残高あたりのGHG排出量=資産ポートフォリオのGHG排出量÷資産ポートフォリオ残高)とする。
- ※4住友生命が加盟するNet-Zero Asset Owner Allianceが推奨する削減水準も満たす水準。
2050年カーボンニュートラル実現に向けた取組み
~気候変動対応ロードマップ~
TCFD提言への対応
当社は、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force onClimate-related Financial Disclosur es,TCFD)」の提言へ2019年3月に賛同しました。これまでの気候変動に関する取組みをより一層推進するとともに、TCFDの提言を踏まえた情報開示の充実を図っています。
ガバナンス
住友生命は、気候関連課題が当社の事業活動に対してリスクと機会をもたらすことを認識しており、気候変動をはじめとした「社会・環境課題の解決への取組みを通じて、持続可能な社会の実現に貢献する」ことを「サステナビリティ経営方針」に定めています。経営方針に基づき重要項目(マテリアリティ)を定め、経営計画の中で気候関連課題に対応した取組み(「カーボンニュートラル社会実現へ貢献」や「持続可能性を考慮した責任投資」)を特定し重点的に取り組む課題を明確化しています。
地球環境に対する具体的な活動方針として「スミセイ環境方針」を定めています。また、資産運用を通じて、気候変動への対処を含む持続可能な社会の実現に貢献することを目指す「責任投資に関する基本方針」を策定し責任投資委員会で気候関連課題を含む幅広い議論を実施しています(リスク管理体制については、「リスク管理」の項を参照)。
さらに、社会・環境課題に係るサステナビリティ重要項目(マテリアリティ)への対応等については、グループ・サステナビリティオフィサーを議長とする「社会・環境サステナビリティ推進協議会」にて、気候変動問題への対応を協議(対応状況について、上期・年度振返りを経営政策会議・取締役会へ報告)する体制としています。
戦略
気候変動が当社の事業活動にもたらす機会とリスクを次のとおり認識しており、適切なリスク管理への取組み等を通じてリスクを低減させるとともに、機会の活用に努めています。
<機会>
- 1.生命保険事業において気候変動に対応した新たな生命保険商品・サービスの開発
- 2.資産運用において、カーボンニュートラル社会に資する技術開発等を行う企業や再生可能エネルギー関連プロジェクト等への投融資機会の増加
<リスク>
気候関連リスクのうち、当社事業に大きな影響を及ぼす可能性のある主なリスクとしては次のようなリスクが考えられます。
- 1.平均気温の上昇等によって中長期的に死亡等の発生率が変化し、損失を被るリスク
- 2.カーボンニュートラル社会への移行に関する政策変更、規制改革等によって当社の投融資先企業が大きな影響を受け、当社の投融資資産の価値が将来的に毀損するリスク
上記のリスク認識に基づき、生命保険事業、資産運用事業における気候関連リスクによる影響を評価するため、以下のステップでシナリオ分析を行いました。
シナリオ分析
当社では、TCFD提言に基づき、気候関連リスクによる生命保険事業への影響のうち、まずは保険金等支払および資産運用への影響を対象に2020年度からシナリオ分析を実施しています。
選定したリスクが将来どのように展開するかを検討するための前提として、「平均気温が1.5℃/2℃上昇に留まるシナリオ」と「平均気温が4℃上昇シナリオ」の2つの排出シナリオを使用しています。2023年度は、「気候変動に関する政府間パネル第6次報告書」(IPCC AR6)、環境省等が公表する報告書、学術論文などの既存資料をもとに、当社の状況にあわせて独自に影響を定量的に推計しています。
生命保険事業
TCFD提言に示されている各気候リスクについて、当社事業に特に関係が深いと把握しているリスク事象を特定し、これまで「冬季の温暖化」「暑熱」「感染症」「自然災害」による保険金等支払への影響分析を行っています。その結果、特に4℃上昇シナリオにおいて「暑熱」による影響が大きく、高齢者や基礎疾患有病者等、脆弱な層では中長期的に死亡者数が増加することが考えられることが評価されました。また「自然災害」においては、4℃上昇シナリオにおいて特に河川における自然災害の影響が大きく、長期的には高齢者層を中心として被害が増加する可能性もあると予想されました。
2023年度は、2020年度に実施した保険金等支払への影響分析(定性分析)で中長期的に影響が大きくなると予想された「暑熱による保険金等支払(死亡保険金・入院給付金)への影響について、過去の死亡保険金・入院給付金支払実績をもとにシナリオ分析(定量評価)を実施しました。将来の推計にあたっては、一定の仮定(当社商品の種類や支払基準、契約の年齢構成等は現在のまま、将来にわたって変わらない)や排出シナリオ・人口シナリオ等の前提をおいたうえでの分析を実施しています。
将来シナリオ等の条件
シナリオ分析にあたっては、「気候変動に関する政府間パネル第6次報告書」(IPCC AR6)に沿った排出シナリオ(1.5℃上昇に留まるシナリオ(SSP1-1.9※)と4℃上昇シナリオ(SSP5-8.5※))それぞれに対して、IPCC AR6で用いられた複数の気候モデル(MIROC6、MRI-ESM2-0)を組み合わせた将来シナリオを使用しました。加えて、将来の人口変化の影響を見る推計シナリオを分析に使用しています。人口変化は、国立社会保障・人口問題研究所による将来推計の出生中位・死亡中位に相当するシナリオ(SSP2)、排出シナリオの前提にある共有社会経済経路(SSP)シナリオ(SSP1またはSSP5)を使用し、人口固定の場合と比較のうえ将来への影響分析を行いました。
また、将来の死亡保険金支払額・入院給付金支払額への影響分析には、当社の過去の死亡保険金・入院給付金の支払実績をもとに推計しています。
- ※IPCC第6次報告書にて、将来の社会経済の発展の傾向(人口・技術・経済成長等)を仮定した共有社会経済経路(SSP)シナリオと放射強制力(RCP)を組合せた排出シナリオです。SSP1-1.9は、持続可能な発展のもとで、工業化前を基準とする2100年頃の気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオを表し、SSP5-8.5は、化石燃料依存型の発展のもとで気候政策を導入せず、2100年頃におおよそ4℃上昇するシナリオを表します。
【シナリオ分析に用いる将来シナリオ等の条件】
将来シナリオ (排出シナリオ) |
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気候モデル | IPCC AR6にて用いられた気候モデル(MIROC6、MRI-ESM2-0) 石崎 紀子, 2021: CMIP6をベースにしたCDFDM手法による日本域バイアス補正気候シナリオデータ(NIES2020), Ver.1.1, 国立環境研究所,doi:10.17595/20210501.001. (参照: 2023/08/30) |
人口シナリオ | 人口中位(SSP2)/排出シナリオと合致(SSP1・SSP5) 国立環境研究所「環境研究総合推進費2-1805成果(日本版SSP市区町村別人口シナリオ第2版)」 |
将来時期 | 2030年/2050年/2090年 |
時間 | 10年ごとに20年平均値を算出(前後10年平均) |
地域 | 全国平均/地域別平均(9区分)
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データ属性 |
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【分析に使用した死亡保険金・入院給付金支払データ】
死亡保険金 |
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入院給付金 |
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- ※将来、支払条件や商品設計、契約の年齢構成等は変わらないものと仮定(一人当たり平均支払額は不変)
【参考論文】
- ①Honda, Y., et al., 2014:Heat-related mortality risk model for climate change impact projection. Environ Health Prev Med., 19(1): 56–63, doi: 10.1007/s12199-013-0354-6.
- ②Honda, Y., et al., 2014:Heat-related mortality, in Quantitative risk assessment of the effects of climate change on selected causes of death, 2030s and 2050s, S. Hales, et al., Editors. World Health Organization., 17-24.
- ③Nakamura, S., H. Kusaka, R. Sato, and T. Sato, 2022: Heatstroke risk projection in Japan under current and near future climates. J. Meteor. Soc. Japan, 100, 597–615, doi:10.2151/jmsj.2022-030.
暑熱による保険金等支払(死亡保険金・入院給付金)への影響と対応
2023年度のシナリオ分析の結果、気候変動(気温の上昇・日本の人口変化等)による将来への影響(定量分析結果)は、1.5℃上昇(SSP1-1.9)・4℃上昇シナリオ(SSP5-8.5)いずれのシナリオにおいても、2030年・2050年にかけて超過死亡保険金支払額、入院給付金支払額が下表のとおり増加することが示されました。
しかし、当社の死亡保険金支払総額(全体)に占める「暑熱による超過死亡保険金額」、入院給付金支払総額(全体)に占める「熱中症等による入院給付金支払額」は、いずれのシナリオ・将来時点でも1%未満であり影響は限定的であることが確認できました。
気候変動が引き起こす「気温上昇」による健康への影響は、熱ストレスの増加だけではなく、冬季の温暖化、感染症の流行パターンの変化等を引き起こす可能性があり、また気温のみならず、グローバルでの人や物の移動、社会経済的な背景等さまざまな要因が複合的に関係することを認識しています。また、シナリオ分析の手法やデータについては国際的にも発展途上であることを踏まえ、引き続き国内外の議論の進展等をみながら、分析範囲の拡大、分析手法等の研究を進め、更なる分析のレベルアップに努めていきます。
- ※1一定の仮定(当社商品の種類や支払基準、契約の年齢構成等は現在のまま、将来にわたって変わらない)や排出シナリオ・人口シナリオ(人口減少の程度に応じた複数パターンのシナリオを使用)等の前提を置いたうえで分析を実施しています(上記推計値は、人口固定の場合を掲載)。なお、今回の分析では「冬季の温暖化」の影響は考慮していません。
- ※2死亡保険金・入院給付金は、当社における支払実績(死亡月:2017/1月~2022/12月末、入院月:2017/1月~2019/12月)をもとに算出しています。死亡保険金は、直接死因が新型コロナウイルスによるものを除いています。入院給付金は新型コロナの影響を排除するため、2020年以降の支払実績は対象外としています。
分析の結果および結果を踏まえた対応策
リスク管理
統合的リスク管理の枠組みにおいて、気候変動リスクをエマージングリスク(環境変化等により新たに発現または変化し、将来的に当社に極めて大きな影響を及ぼす可能性のある事象)の一つとして特定しています。また、新たに開始した事業リスク(当社を取り巻く事業環境の変化への対応が不十分となり、経営戦略などの達成を阻害するリスク)管理においても気候変動リスクを対象としています。これらについてモニタリングを行い、ERM委員会、経営政策会議、取締役会に定期的に報告し、リスク認識の共有等を図っています。
資産運用において、気候変動を含むESG要素を考慮した投融資判断、投資先とのエンゲージメント活動(気候変動に係る対話)を実施しています。
指標・目標
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、まずは、2030年のGHG排出量削減目標の達成を目指します。