DX対談

2022 DX対談

Profile

理事 デジタルオフィサー

  岸 和良

情報システム部に在籍し、社外でもデジタルに関する世界を広く体験。2016年、Vitality開発のシステム責任者となる。2021年にはデジタルオフィサー(DO)に就任し、デジタル人財育成のためのメソッドの開発や、Vitalityの発信、社外との連携に携わる。

AIオフィサー

  藤澤 陽介

統計学やアクチュアリーサイエンスを専門とし、プログラミングやデータを活用した保険の商品設計を得意とする。2020年に住友生命に入社、2021年4月にはAIオフィサー(AIO)に就任し、データ分析チームのプロジェクトのリードや教育に携わる。


DX推進の成果と課題

Q:住友生命のDX推進のきっかけと、Vitality開発の経緯、そして現状についてお聞かせください。

 2011年、当社は「あなたの未来を強くする」というメッセージによるブランド戦略を展開し始めました。その後の2015年に、そのコンセプトに合うと着目したのが南アフリカにあるディスカバリーの健康増進プログラム「Vitality」でした。従来の保険のように、病気やケガなどのリスクに備えることに加え、健康増進に向けてお客さまの行動を変えることにより、そのリスクそのものを減らすことを目指す点で、まさにお客さまの未来を強くする商品です。そして、当社が単なる保険会社から、幅広いサービスを提供する会社としてプラットフォーマーになれると予感しました。

藤澤 私がVitalityを知ったのは、2014年の頃でした。Vitalityのシステムでは、お客さまの健康増進活動をトラッキングする仕組みになっているため、従来の保険のように加入時だけではなく、その後も一貫してデータを蓄積できる点が非常に魅力的でした。今後、日本でデータが集積することにより、高齢者の健康増進活動について非常に先進的に分析できるものと期待していますし、人生100年時代を健康で豊かに生きるということに貢献できるという点で、まさしくDXです。

 私もそう思います。ただ、当時はDXという言葉はなく、後になってそれに気づきました。当初は、海外のプログラムだけに苦労も多かったのですが、関わった全職員がそれを乗り越えようと懸命でした。2022年3月には累計販売件数が100万件を突破しましたが、非常に励みになったのは、お客さまからの感謝の声でした。Vitalityには、今までとは全く異なる保険だからこその見方、感じ方、よろこびがあるように思います。

藤澤 データ分析にもVitalityならではの苦労がありました。データは、お客さまの日々の活動や、健康診断の受診といった何らかのアクションが記録されることで生まれます。高度な分析に見合ったデータを収集し、解析するためには、「データの先に人がいる」という意識がなければなりません。それを常に念頭に置いて、提供する価値を考えました。2022年3月には「Vitality健康レポート」という、Vitalityを通じて得られるデータを使ったサービスをローンチしました。お客さまの健康状態を評価し、それを見た上で次の健康増進活動に納得して移れるモデルやアルゴリズムを設計しています。

デジタル人財の育成に向けた取組み

Q:住友生命のDXを支える、デジタル人財の育成に向けた取組みについてお聞かせください。

 Vitalityは価値創造型の商品ですが、当社には、新しい価値を創造してビジネスに組み込むといった「形」にするための要件定義をできる人財がいませんでした。そこで、まずはシステムの知見がある人財に対し、シェアリングエコノミーやクラウドファンディングといったビジネスの仕掛けや、データを集めるためのウェアラブルデバイス活用などのIoTといったデジタル技術を教えるカリキュラムを導入しました。今後は、法人のお客さまにVitalityを提供するという観点で、ホールセール部門にも広げていきます。また、サービス部門や代理店、資産運用といった部門にも展開し、最終的なお客さまへの価値提供につなげていきたいと考えています。

藤澤 そういった教育に加え、目の前の問題をデータ分析の課題に置き換える力も非常に重要になってきます。このような力を磨くためには、Vitalityの仕組みと、各部門の業務内容、それによって提供できる価値などについても理解しなければなりません。

 デジタルとデータはあくまで手段、目的はビジネスであり、お客さまへの価値提供ということです。データの先にいらっしゃる個人のお客さまの困りごとを解決し、法人のお客さまについては、いかにビジネスに貢献できるか、といったことに価値があるのだと思います。

藤澤 データ分析では、一般的にはプログラミングスキルや数学の力がフォーカスされます。しかし、それらに加え、ビジネスの力も必要です。これら全てを兼ね備えることは難しいかもしれません。そこで、プロジェクトを通じて考える力を伸ばしながら、チームとして互いに補いつつ、出来る領域を広げていくような教育を行います。

 実際に追求しているビジネスモデルにおいて、価値を実現するために必要なものを、目的意識をもって勉強することが最も効果的だということでもあると思います。

藤澤 「ラーニングアジリティ(Learning Agility:学習機敏性)」という言葉がありますが、必要に迫られて勉強する方が、吸収力に非常に優れるということは、私も実感しています。その過程では、業務部門の間での違いを認識し、互いに理解することにより、価値の提供へつなげるようにしています。

 私も、価値提供ができるスキルを備えた人財を育てることを重視したいと思っています。そして、そのような取組みの先に、当社が実現を目指すVitalityを核としたエコシステム、つまりWaaS(Well-being as a Service)があります。そのためのデータ分析を当社の価値にすると経営陣が発言するようになったことには、当社のDXの進展が感じられます。

住友生命がDXで目指すゴール、今後の展望

Q:今後、住友生命がDXで目指す展望についてお聞かせください。

 世界ではデジタルを活用し、シームレス、ボーダーレスにお客さまの人生において価値のあるサービスを提供し続けるというビジネスモデルが広がっています。その究極の形がウェルビーイング、よりよく生きるという価値提供であり、それは社会全体の課題解決にもつながっていきます。お客さまにVitalityにご加入いただき、健康増進活動を通じてデータが蓄積され、そのデータを活用して健康で豊かな生活というウェルビーイングを実現する。これが、Vitalityの目指すところです。

藤澤 そこでのVitalityの強みは、運動や健康診断のデータが疾病や入院といったアウトカムを通じてつながっていることです。そして、非常に大切なデータをいただいている以上、その価値をお客さまに還元しなければなりません。その一つが、先ほど申し上げた「Vitality健康レポート」であり、健康状態を見える化できる仕組みを提供していくことです。

 そうやって幅広い価値を提供する過程でデータを取得し、そのデータを活用して、お客さまにさらなる価値を提供する。その結果、お客さまが当社のファンになるというスパイラルが発生するのが、Vitalityが作り出すプラットフォームの究極の形だと思っています。

藤澤 同じことが、パートナー企業についても言えると思います。例えば、顧客の活動データを持つ企業に対し、住友生命が持つデータを基に顧客の活動と健康状態の相関について根拠をもって示すことができれば、その企業にもVitalityというプラットフォームを通じて価値を提供できます。Vitalityがデータに基づく有効なプログラムだということを世の中に示せれば、プラットフォーム自体をさらに拡大させるというスパイラルを生み出し、ウェルビーイングを自然に構築できるのではないでしょうか。そしてその結果、Vitalityが社会にとってなくてはならない存在になってほしいと思っています。以前、南アフリカに行った時、タクシーの運転手がディスカバリーやVitalityについて誇らしく話していたのが印象的で、そこに当社のVitalityが目指す姿を見たように思います。

 お客さま、社会、そして当社にとっての共通価値を創造しながら、結果として社会課題を解決していきたい。その姿を実現することにより、当社のパーパスである「社会公共の福祉に貢献」していきます。