トップメッセージ

高田幸徳 取締役 代表執行役社長

コロナ禍の3年間お客さまと社会に貢献する道を模索するなか、3つの成果を上げました。

 2020年4月に「スミセイ中期経営計画2022」がスタートし、以降3年間は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けました。未曾有の事態のなか、私たちは生命の大切さや社会生活について深く考えさせられ、また企業はいかに事業を存続し、その上でお客さまから選ばれるかが試されました。

生命保険会社は保障の提供以外にも機関投資家など様々な側面がありますが、一番根底にあるのは、いかにお客さまの安全・安心に寄り添うかであり、改めて生命保険の必要性や私たちが果たすべき役割とは何かという原点に立ち返って考える機会となりました。私自身も2021年の社長就任以来、住友の「自利利他公私一如」※1という事業精神に立ち返り、危機的状況においてお客さまと社会の役に立つ道を職員とともに考えてきました。そのなかで3つの成果を上げることができました。

 1つ目は、デジタル化の推進です。日常の三密回避や非接触を徹底する過程で、保険の手続きや相談、コンサルティングのデジタル化・オンライン化を進めることができました。デジタル化の必要性は以前から言われていましたが、この環境下ゆえに加速された面もあったと思います。

 2つ目は、保険金のお支払いを通じてお客さまの役に立てたことです。特に2022年度は第7波・第8波の影響で年間約750億円の給付金と約120億円の保険金をお支払いしました。いざという時に保険金・給付金をお支払いするという生命保険会社としての社会的使命を果たせたほか、お客さまにとっても保険の必要性や手続きの迅速さを実感いただけたのではないかと思っています。

 3つ目は、保険の新しい価値を提供できたことです。コロナ禍において手洗いやうがい、マスク着用が日常化したことで、疾病を予防する生活スタイルや健康づくりに対する人々の意識が一段と高まりました。その流れもあって、健康増進型保険“住友生命「Vitality」”※2が人気を博し、累計ご契約件数は足元で140万件を突破しました。また、掲げた経営重要指標(KGI)について全指標で目標を達成することができました。

住友生命およびメディケア生命における保険金等の支払済金額

※1   住友の事業精神を表す言葉の一つで、「住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利する事業でなければならない。企業は私的な存在であると同時に公的な器である」という意味があります。
※2   “住友生命「Vitality」”は保険契約とVitality健康プログラム契約で構成されており、保険本来の保障に加え、お客さまの日々の健康増進活動を評価し、ステータスに応じて保険料が変動する仕組みを組み込んだ保険です。
>「“住友生命「Vitality」”」参照

変化する事業環境下でお客さまに提供する「よりよく生きる=ウェルビーイング」の価値を拡げていきます。

 わが国が抱える課題の一つに少子高齢化、人口減少があります。また、人々のライフスタイルも大きく変化しており、いわゆる“親子4人家族”のような典型的な家族像はもはや遠いものとなり、独身者や子どもを持たない世帯、高齢単身世帯の比率が上昇傾向にあります。

 この大きな変化の流れのなかで、住友生命グループがいかにお客さまに対して貢献し、保険事業を発展させていけるかは大きなテーマであると認識しています。私たちは相互会社という事業形態をとっていますので、国内の生命保険のご加入者の皆さまに対してどのように貢献し、提供できる価値を拡げていくのかというのは常に重要なポイントとなります。

 従来、保険の考え方はリスクに対する経済的な備えであり、何かが起こった時に真価を発揮するいわばパッシブな価値提供でしたが、2018年に発売した“住友生命「Vitality」”によって、保険を通じて健康を増進し、リスクに備えるだけでなくリスクを減らしていくというアクティブかつポジティブな価値提供へと進化を遂げました。

 平均寿命の延びに伴い、長い人生をどう明るく豊かに生きるかについての関心が高まっており、お客さまの生活に根差した課題やニーズに寄り添ったサービスを提供できるか、そのサービスを広くお客さまにお届けしていけるのかがますます重要になっています。今後は、これまでの保険の役割に加えて、コロナ禍でさらに浸透してきたリスクの予防・早期発見や、病気になった場合の重症化予防や改善を支援するといった新たな取組みを推進していきます。

「住友生命グループVision2030」「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」へ。

 私たちは「社会公共の福祉に貢献する」というパーパスを念頭に、2030年を一つの到達点として、どのような会社になりたいか、また目指すべきかという議論を重ねてきました。その結果、生命保険というコアは堅持しながら、事業のウイングをより大きく拡げ、新たな価値を提供する会社になるという方向性を定めました。身体的な健康だけでなく、社会的、精神的にも健康で幸せな状態、つまり「ウェルビーイング」という価値を提供して社会に貢献していくというビジョンを描き出し、「住友生命グループVision2030」を策定しました。「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」を将来のありたい姿として、住友生命グループはウェルビーイングサービス領域におけるトップランナーを目指します。

 「ウェルビーイング」という言葉は「サステナビリティ」とも似通っていますが、サステナビリティは社会の持続可能性を考えるうえで、SDGs※3への取組みをはじめとした、未来に向けてのマイナスをゼロにする姿を目指すものです。サステナビリティが重要なのはもちろんのことですが、2030年という少し先の未来を考えた時に、それをもう一歩先に進めて、どうしたらよりよい生活・人生・社会になっていくかに焦点を当て、さらにプラスの価値を追求していこうというのがウェルビーイングの考え方です。 現在、「Vitality」は会員数が105万人を超え、ウェルビーイングの考え方も着実に浸透し始めています。ご加入者の方からは「毎日がポジティブに感じられる」「心身ともに充実感が増しているようだ」といった声を多数いただいています。この共感の輪を拡げて、人々の生活にしっかりと定着させていく必要があります。私たちの取組みとしては、今までの構想・準備段階から一歩進めて、ウェルビーイングサービスを実装していく段階にシフトしていきます。

 目指すべき目標として、2030年までにグループのウェルビーイング価値提供顧客数2000万名、Vitality会員数500万名を掲げています。かなり挑戦的な数字ですが、実際に行動することで新たなウェルビーイングの“芽”が出てくることにも期待をしています。その推進役としては全国津々浦々に3万名を超える営業職員がいます。今年度から「ウェルビーイングデザイナー」と呼んでおり、生命保険の販売だけでなく、お客さま一人ひとりに最適なウェルビーイングサービスをデザインし、お届けしていく役目に変化させようとしています。

 また、ウェルビーイングサービスをお届けしていくためには、当社が独力で取り組むのではなく、他の民間企業や自治体などの共感者を増やし、共創のネットワークを拡げていくことが不可欠です。デジタルやネットワークの技術を活用し、いわゆるプラットフォームのような形で横展開していける世界を実現したいと思っています。この概念を「Well-being as a Service(WaaS)」※4と呼び、ウェルビーイングサービスをお客さまに提供するエコシステムを拡げていきます。

 従来、保険以外のサービスは付帯サービスという位置づけでお客さまに提供してきましたが、現在は「WaaS」サービス単独でのビジネス化も図っています。お客さまから「有償でも利用したい」と思っていただける高付加価値サービスの開発が何より重要であり、「WaaS」サービスが普及することによって保険への導線もつながってきます。この観点から、保険事業と並び立つような「WaaS」サービスの拡充をより一層加速したいと思います。

※3   SDGsとは2015年の国連サミットにて採択された2030年までの国際開発目標で、17の目標(ゴール)および169のターゲットが設定されています。
※4   「Well-being as a Service」の略で、“住友生命「Vitality」”を中心に「一人ひとりのよりよく生きる=ウェルビーイング」を支えるサービスをエコシステムとして展開していきます。
>「WaaS(Well-being as a Service)の取組み」参照

「スミセイ中期経営計画2025」Vision2030実現に向けた軌道確立の3年間と位置づけ、遂行していきます。

 「住友生命グループVision2030」の実現のために、次の3年間でやるべきことをバックキャストする形で策定したのが、「スミセイ中期経営計画2025」※5です。2025年までの3年間を軌道確立期間と位置づけ、様々な投資も含めた仕組みづくりを行っていきます。具体的な施策として「ウェルビーイングデザインへの進化」「新規領域でのイノベーションの実現」「収益構造改革」「グループ戦略」という4つの取組みと「人財共育」「デジタル&データ」という2つの推進エンジンを掲げました。

4つの取組み

 1つ目はウェルビーイングデザインへの進化です。従来の保険コンサルティングを中心とした「ライフデザイン」から、保険・非保険領域の総合的なサービスを、チャネルを超えて提供する「ウェルビーイングデザイン」へと進化させ、ウェルビーイングの価値提供をさらに拡げていきます。その役割をお客さまとの接点で担うのが、ウェルビーイングデザイナーです。

 2つ目は新規領域でのイノベーションの実現です。ステークホルダーの「よりよく生きる」をいかにサポートするかという観点で新規領域でのイノベーションに取り組みます。「ウェルビーイングデザイン」として提供する非保険領域のサービスを拡充し、さらにスケール化することで「WaaS」の確立と拡充を進めます。具体例としては、(株)PREVENTとともに自治体との連携を進めている重症化予防サービス※6や、(株)ファミワンと企業向けに取り組んでいる不妊治療などのプレコンセプションケア※7があります。世の中には様々なイノベーションの種がありますが、スケール化していかないと本当の意味でのイノベーションにはなりません。「デジタルやデータ」を駆使して開発した先進的な取組みを、最後は「人」であるウェルビーイングデザイナーがお客さまに一番合ったウェルビーイングサービスとしてお届けすることで、新たな共感者を拡げていく、あるいはそれによって社会的なつながりを拡げていく、という姿を目指しています。

 3つ目は収益構造改革です。上記2つの取組みを支え、会社のサステナビリティを高める方向で、資産運用や海外事業の強化、コストコントロールなどによる収益構造改革を実行します。資産運用においては、国内外の金利差が拡大したことで為替変動の影響を抑制するためのコストが大幅上昇するなど、経済環境が大きく変化しました。超長期の日本国債等への投資によって国内金利リスクを削減し、収益性の高い資産への投資拡大を軸に、収益力の向上とリスクコントロールの強化を図ります。また、住友生命のすべての資産運用を責任投資※8と位置づけており、カーボンニュートラル社会の実現に向けた移行を後押しするトランジションファイナンスにも積極的に取り組み、持続可能な社会に貢献していきます。

 海外事業については、これまで取り組んできたアメリカ、アジアを中心とする方針は大きく変えず、それぞれ出資している子会社・関連法人等のレベルを向上させ、あるいはつながりを深めていく方向で、海外事業のウエイトを高めていきます。また、子会社の米国生命保険グループであるシメトラの投資顧問子会社へ海外事業債の運用を全面委託するなど海外子会社とのシナジー発揮にも取り組んでいます。住友生命からの人財派遣や商品開発面でのレベルアップなどにも取り組んでおり、こうしたシナジー発揮を他の関連法人等でも拡げていきたいと考えています。

 4つ目のグループ戦略については、住友生命グループ全体の持続可能性を高めるために、経営管理体制の高度化に取り組み、グループ各社との対話等を通じて健全性や業務の適切性の確保を重視した経営を行っています。また、環境課題などの解決に向けた取組みをグループ全体で推進しており、「地球環境」というステークホルダーに対しても、グループ全体で取り組み、一体感と相乗効果のある運営を推進していきます。2050年のカーボンニュートラルについてはグループ全体でネットゼロを目指すほか、2030年の削減目標についても引上げを実施しました※9。地球環境のウェルビーイングへの貢献を目指し、取組みを強化していきます。

※5   >「スミセイ中期経営計画2025」参照
※6   >「重症化予防に向けた取組み」参照
※7   >「プレコンセプションケア」参照
※8      ESG投融資とスチュワードシップ活動の総称です。
>「責任投資の取組み」参照
※9   >「社会・環境サステナビリティに向けた取組み」参照

2つの推進エンジン

 上記4つの取組みの推進力となるのが、「人財共育」と「デジタル&データ」です。

 「人財共育」※10については、2021年の社長就任直後に人財共育本部を設置してから、私自身が本部長として骨格を作り、この2年間は社内の人財ポートフォリオの状況や現状の課題などを洗い出しながら、事業戦略と連動する人財戦略の検討を進めてきました。会社が目指す姿に向けて必要な人財について長期的なグランドデザインを作り、これから実行していくというフェーズです。

 大きな狙いとしては、住友生命グループVision2030実現の根幹となる「人の価値」を向上させ、組織力の強化と企業価値の向上につなげていくことです。従来、会社主導で受け身になりがちだったキャリア形成から脱却し、職員一人ひとりのありたい姿を実現することが目的です。そのために会社と職員の関係性から見直し、「会社と職員が共に育ち、選び・選ばれる関係」となることを目指し、職員の自律的なキャリア開発の推進に取り組んでいます。

 「デジタル&データ」※11については、その背景として、次の3年間で新しい価値・サービスを創出するにはデジタル人財の育成が不可欠という考えがあります。一昔前の「デジタル人財」と言えば、システムの保守・管理を行う人のことでしたが、今後ウェルビーイングに資する事業を展開していくには、企画・営業部門とシステム部門が別々に取り組むのではなく、デジタル&データを共通言語として一体で取り組んでいく必要があります。

 既存システムの保守・管理はもちろん重要な業務ですが、デジタル・データに偏らずにビジネス視点で会話できる「デジタル開発人財」をはじめ、ビジネスに加えてデジタル・データが理解できる「デジタル企画人財」、各種デジタルツールを使いこなせる「デジタル活用人財」をデジタル人財として定義し、各部門の特性や職種の役割などに応じて必要なスキルの習得を促進していきます。

 さらに、これらの取組みの推進役として、この4月に「エグゼクティブ・フェロー制度」を導入し、2名を選任しました※12。エグゼクティブ・フェローは、社内外を問わず高度専門知識を持った人財を登用し、特定の領域において研ぎ澄まされた価値を実現する役割を担ってもらう制度です。今回の2名はデジタルと人財の分野でしたが、これから他の分野でも飛び抜けた資質・能力・可能性を持つ人が出てくれば、年齢・性別・経歴など不問で積極的に登用していきたいと考えています。


「住友生命グループVision2030」実現のステップ
※10    >「人財共育・人的資本」参照
※11    >「デジタル&データ」参照
※12    >「エグゼクティブ・フェロー対談」参照
※13    1926年の社名変更(日之出生命→住友生命)から100年

「Well-being as a Service(WaaS)」人生100年時代の課題解決に向け、ウェルビーイングサービスを実装し、拡げていきます。

 「WaaS」の中核となる「Vitality」による健康増進をより一層推進することに加え、オープンイノベーションを活用して新規事業・サービスを創出し、人生100年時代において誰もが経験する「病」と「老」の課題解決を進めていきます。注力すべき分野は3つあります。一つは疾病があってもよりよく生きるための「Disease Management」サービスであり、もう一つは齢を重ねるなかでもよりよく生きるための「WellAging」サービス、3つ目は加齢に伴う様々な課題にポジティブに向き合い、よりよく生きるための「Wellness Life」サービスです。

 例えば「Wellness Life」の分野では、プレコンセプションケアの実証実験が社内外で始まっています。サービス内容は、不妊治療に対する理解促進を含めた多角的なサポートの提供で、2022年度の社外企業での実証実験を踏まえ、2023年度からサービスローンチを予定しています。

 また、ウェルビーイングサービスの実装という観点では、自治体との連携事業※14にも力を入れています。どの自治体の方も地域住民の皆さまの生活をよりよくしていきたいという想いをお持ちです。その想いに対して民間企業として何かお手伝いできないかと考え、「Vitality」を活用した連携事業を全国で進めており、3年で100の自治体と事業を行うことを目指しています。例えば、2022年9月からは大阪府で大阪府民の健康づくりを応援するプロジェクト「大阪Vitalityチャレンジ」をスタートさせており、8カ月で6万人を超える方にお申込みをいただいています。

 従来の保険のあり方とは少し離れていますが、ウェルビーイングを拡げていく一環として取り組んでいきます。今後は新サービスの開発やビジネスモデルの創出について、より広角に検討していきたいと思います。

※14    >「地方自治体との連携で健康で安心なくらしをサポート」参照

ステークホルダーへのメッセージ5つのステークホルダーそれぞれのウェルビーイング実現を目指して。

 私たちの最も重要なステークホルダーはご契約者であり、ご契約者の皆さまは一人ひとりが地域・社会の構成員です。従って、地域・社会に対していかに寄り添い、未来に向けて伴走していけるかが重要と考えています。

 当社がウェルビーイングの実現を目指す上で、よりポジティブな視点に立ち、保険のご加入者の方のみならず、地域社会に求められる価値を提供していくとともに、お客さま・社会・ビジネスパートナー・地球環境・従業員という5つのステークホルダーに対し、それぞれのウェルビーイングに貢献し続ける企業グループであり続けたいと考えています。これが住友生命グループVision2030、そしてその先にあるサステナビリティ経営方針の実現に向けた私たちのコミットメントです。

 ステークホルダーのウェルビーイングを支え、育んでいく。まさにその貢献によって、広く社会から信頼され、持続的に成長する会社になろうとしています。その実現のために、全社一丸となって取組みを進め、目標を達成していくことが、経営者としての私の使命です。ステークホルダーの皆さまには、変わらぬご支援を賜りますようお願い申しあげます。